日常の細やかな描写を通じて小さく立ち直る人たちを描いてきた、芥川賞作家の津村記久子さんに、「よりどころ」について話を聞きました。
つむら・きくこ 1978年、大阪府生まれ。2005年、「マンイーター」(後に「君は永遠にそいつらより若い」に改題)で作家としてデビュー。09年、「ポトスライムの舟」で芥川賞を受賞した。「この世にたやすい仕事はない」「つまらない住宅地のすべての家」など著作多数。
パワハラ被害 カウンセラーの「大丈夫」に励まされた
――新卒で入った会社でパワハラに遭い、その経験を小説「十二月の窓辺」で記しています。パワハラに遭った時、「よりどころ」にしていたものはありましたか。
9カ月くらい勤めていたのですが、最後の2カ月の間はずっと怒鳴られていました。普通に電話で仕事の話をしているだけで怒られるなど、理不尽なことも多かったです。
印刷関係の会社でしたが、存在しない製版フィルムの紛失を、私が書いたわけではない仕様書のミスで私のせいにされるという事件がおきました。ありもしないことを理由に怒られる、ということをされた時点でおかしいなと思いました。そこで自分は辞めたのですが、早く抜けられてよかったなって思います。
当時は何をしていたのかな。何もなかったんじゃないかな、音楽を聴いていたくらいで。パワハラを受けたのは2カ月くらいの期間だったので、心は保てていなかったけれど、惰性で会社に行けていた、という感じでした。
――会社を辞めた後は。
「もう会社勤めはできない」と思った時期もありました。そこで職業カウンセリングを受けたんです。私が「能力がないのでもう働けない」と言うと、カウンセラーさんは、「別に普通よ」と答えてくれて。自分と何の利害もない人が「大丈夫」と言ってくれたのが大きかったです。
別れ際に、私がよっぽど不安そうにしていたのか、「自分は火曜日と木曜日の夕方にここにいるから、何かあったら来なさい」って言ってもらえたんですよね。そうやって、人に気にかけてもらえたのが支えになりました。
大きな幸せは書けないけれど
――津村さんの作品では、何らかのきっかけを得て立ち直る人が多く登場する印象です。
そうですね。大きな幸せの話…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル